撮影をした後のデータはもう自分のものではなく、第三者の目で見る癖がついている。そこにあるものは結果であり客観的な目で見てこそその写真の持つ力を感じることが出来る。特にブライダルスナップは自己満足ではないそこに写る人達のために写真を撮りたいと思って過ごしてきた。
3年前のバリ島。その時のある瞬間が忘れられない。あの時、私は人に待ち受ける運命が存在すると思った。日本に戻り写真をスライドショーで見た時も同じ気持ちになった。バリ島の海岸に作られた挙式スタイル。午後からの挙式で最高の天候だった。蒼い空、純白の砂、透き通る海、ただ風が強く、でもそれがバリだった。
ダーズンローズ。そこに集まったゲストは二人との思い出と、二人への祝福と、二人とこれから歩んでいく友情、そんなものが合わさってみんな笑顔だった。
リングボーイが砂の上を指輪を運んで行く。小さな悲鳴。周りの大人が砂を掻き分ける。1分、2分、3分砂を掻き分ける人が群れていく。半数以上のゲストが小さな指輪を探し始めた時、私も指輪を探す方に入った。落とした所からそんなに移動するはずもなく、。10分は経っただろうか、リングボーイは新婦の前で泣き、新婦は笑顔で泣きじゃくる男の子を抱きしめている。中断した挙式は指輪の交換を飛ばして再開した。指輪のことは気にはなっていたが、私はそれよりもこの二人の素敵さを改めて感じていた。大切な指輪を失ったかもしれないのに、こんなに優しい笑顔でい続けていたことに。
二人は退場し、たくさんの写真をみんなで撮影していた。20分は撮影していただろうか、私が海岸に向かってゲストと笑って話す二人を撮影していた時、後方で歓声が上がった。現地スタッフが白い歯を見せて右腕を空に上げている。
金属探知機を使って探し当ててくれた指輪。
次々起こる歓声と叫び声の中、やっと笑ってくれたリングボーイがカチコチの姿勢で二人の元に指輪を運ぶ。安堵、歓喜、私も撮ることに一生懸命だった。ムービーではなく写真で表現するこの場の空気、感情。
たくさんのゲストの作る輪の中で指輪の交換をする二人。
私はその場にいられたこと、そこで写真を撮っていたことに感謝している。
ブライダルはその数だけドラマがある。私が1万組を越える二人を26年間撮影し続けてこれたのもそこにあると思っている。
私は道具になりたい。有名人になることや自分のステータスよりも、その場を用意してくれた縁、人、企業、そして運に感謝していきたい。